
心と向き合う、第二の家
2人に1人は、65歳以上。
道を歩いて見かけるのは、もっぱら猫やおばあちゃんたち。
鹿児島の離島の中で最も高齢化率の高い甑島では、介護・福祉の担い手が常に求められています。
精神的にも体力的にも決して楽ではない仕事ですが、「利用者の方が、自分の家のように穏やかに安心して過ごせる」そんな場所、そんな関係性を日々目指す場所がここにはあります。
上甑島唯一のグループホーム「多喜人(おおきに)」は、玉石垣が美しい里町の武家屋敷通りの一角に佇んでいます。
お父様の西薗修郎さんを理事長に、長男が施設長、次男が副施設長という、ザ・家族経営。
お父様が今から約9年前、平成19年の11月1日に設立されました。現在、2棟の施設に18名の方々が、家庭的な環境のもと穏やかな日々を過ごしています。
施設向かいの趣深い石垣前に立つ、施設長の西薗桂さん。
「利用者の方もそのご家族も、自分が昔っから知ってる顔なじみばかり。」と、語り口やときおり見せる笑顔が包み込むように柔らかい。
清潔感のある明るい室内は温かく、ゆったりとした時間が流れている。キッチンの前にあるテーブルには、いつも利用者さんたちが集っている。
目尻がきゅっとした笑顔が素敵なおばあちゃんは目が合うなり、「こっちにいらっしゃい。ここに、座んなさい」と声をかけてくださる。
「またあとで伺いますね」と、みなさんへの挨拶をそこそこに、早速ご兄弟にお話を伺った。
お兄さんの桂さん(写真左奥)に、弟さんのあたるさん(写真右手前)。ご兄弟お二人とも福祉の道に進んだきっかけは、なんだったのでしょうか。
「小さい頃からひいばあちゃんと一緒に暮らしていて。看病しながら暮らすっていう、それが当たり前の生活だったんだよね。だからなのか、どういう仕事をしようかって考えたとき、自然とこの道に。」と、桂さん。
一番身近な人への想いから始まった、現在の仕事。なにより、ひいばあちゃんと一緒に暮らす4世代での生活があったことに豊かさを感じます。
続けて、福祉の仕事をしていて良かったと思う事は何かをお聞きしたとき、意外な答えが返ってきました。
「この仕事してて良かった、ってことは一度もない。そもそも自分は向いてないと思っている。15年携わってるけど、今でもこの仕事に向いてるって思った事がない。でもこの仕事しか知らないから向き合ってる。」
おもしろくない答えだね、と桂さんは笑う。
では、あたるさんは、仕事をしていてやりがいを感じることはありますか?
「うーん、難しいね。」
「結局は、その人の『個性』と『心』との向き合いだから。」
俺、いま良いこと言ったね(笑)と、笑って空気をほぐす。
優しく語りかけるように、あたるさんは、言葉を続ける。
「やっぱり、人間関係だから。今日は笑顔だけど、明日はいつ急変するかわからない。ましてや亡くなってるかもしれない。そういうときに、『今まで何ができたかな』『楽しかったかな』って。だから日々を、ここでいかに安心して楽しく過ごせるかを考えながらその人に向き合うっていう、難しさがある。だからこそ、その日に何もなく無事終えたというのが、達成感かもしれないね。一筋縄でいかないというのが、やりがいかな。」
福祉一本で進んでこられたお二人ですが、実は前職とのギャップを感じて自信をなくした時もあったそう。
弟であり、副施設長であるあたるさんは、12年前に大学を卒業してすぐ島に帰ってきた。
「今までは10年近く、島内の別な施設の特老(特別養護老人ホーム)にいたんだよね。そこで俺は色んな経験を積ませてもらってきたから『こっちに来たってやれる!』って、それなりに自負もあったんだけどさ。でも、ここの利用者さんは、認知症はあるけど体も動かせる元気な方が多いのね。」
「例えば、ここで働き始めてすぐの時、施設を飛び出して「帰る!」って聞かない人がいたんだけど、そのとき最初は心配しなくてもすぐ戻ってくるだろうなんて思ってた。でも結局、港の方(施設から徒歩15分ほど)までずっと一緒に歩いて行くこともあったんだよね。これまでは感じなかったリスクもあって大変で、そのギャップを最初は感じたよ。『今までの俺の10年間は何だったんだ』ってさ。」
ひとくちに福祉といえども、利用者の方の心や体の状態が違えば、求められるサポートに対する心構えや接し方もそれに応じて変えていく必要があるようです。
ここでの具体的なスタッフさんの動きを見てみたいと思います。
少しお仕事風景をのぞかせていただきました。
いつもスタッフの皆さんはしゃがんで利用者の方の目線になって会話をする。
一日のお仕事の流れとしては、職員は9:00に朝礼があり、その時に夜勤と日勤の引き継ぎ。8:00、12:00、17:00がご飯、それ以外は利用者の方は自由時間のため、そのサポートを行う。
この施設で一番長く働いている文子さんは語る。
「ここで看取ることも多くなってきたけど、『グループホーム』っていうのは生活の延長だから。基本的に体が動かせる人たちだし、料理や洗濯を一緒にして、『出来る限り利用者さんが身の回りのことを自分でできるように』サポートする。スタッフはやりすぎず、見守ることが大事。利用者さんが『痛い』というときは、本当に『痛い』んだって、教えられたことがあって、相手のその『痛さ』に丁寧に向き合うことが大事。体力的に疲れるというよりは、転倒しないようにとか色々気を張っておく精神的な方がどちらかというと大変かな。」
利用者の方は、お風呂に入ったり歌を歌ったり、絵を描いたりと、各々好きな事をして過ごす。外に出て散歩したり、山菜をとるため山に行ったり、こっぱもち(サツマイモ・もち米・砂糖を使った、甑島の昔ながらのお菓子)づくりをしたこともあったそう。
この日はみなさんテーブルに集まり、「里小唄」や「二輪草」など慣れ親しんだ歌を一緒に歌っていた。
はきはきと話し続ける方もいれば、大きな声で歌いあげる方、その歌を静かに聴いている方。見慣れない取材陣に喜んでくださったり、話しかけてくださったり。
同じ時間と場所を共有しながらも過ごし方は様々ですが、スタッフは絶妙な距離感でそれぞれの利用者の方とコミュニケーションをとっています。あまり時間に追われてバタバタすることはなく、スタッフはゆったりと利用者さんに向き合う。
この日、見せていただいた利用者の方の作品は大胆かつ繊細で独創的。利用者の方の好きなことを、会話をしたり一緒に過ごしたりと丁寧に接する中で汲みとっていき、楽しく過ごせるように心がけているそう。
元々福祉関係の仕事につくつもりはなかったという文子さん。ここで働いていたお母さんが体調を崩したのをきっかけに、代わりに働き始めた。
今はこの仕事が向いているとも思うし、楽しさも感じるという。
「認知症持ってる方々だから物忘れも多い。そんな中で、ちゃんと名前を覚えて『文ちゃん』って呼んでくれるのは、嬉しいよね。楽しいのはイベントかな。例えばクリスマス、誕生日、敬老会、地域の行事とかあるときは、スタッフからの出し物やおいしい料理が利用者さんにとても喜んでもらえるよ。」
「それに、やっぱり人生の先輩でしょう。いろいろ知恵を教えてもらうことも多いの。料理のひと工夫とかね、教えてもらった通りにやったら本当に美味しくできたし。」
「あとは、道で車椅子の方や年配の方を見かけたら、すぐに手助けができるのはいいよね。慣れてない人は気持ちがあってもできないことがあるかもしれないけど、私たちはやり方を知ってるからね。」
文子さんの言葉から、施設のスタッフや利用者の皆さんに慕われているのがとてもわかる。休日には、ハンドメイドのアクセサリーなどを制作している文子さん。甑島での仕事は、趣味とのバランスもちょうど良いようだ。
さて、福祉の現場というと、専門的な知識や資格がないといけないのではないか?と、敷居が高いイメージを持っている方も少なくないように感じます。文子さんのように元々専門でない方もいらっしゃいますが、具体的にこういう人に来てほしい、持っていてほしい資格などはあるのでしょうか。施設長に改めて問う。
「資格は持ってなくても大丈夫です。取るかどうかはその人次第だね。せっかくだから取ってほしいとは思うし応援するけど、強制はしませんよ。」と、桂さん。
女の職場とも言われるこの仕事。
男の人が利用者の方をお風呂に入れたりオムツを替えたりすることを、受け入れにくい方もいるのではないかという。また、平均寿命の関係からか利用者の方は女性比率が非常に高く、より抵抗なくサポートできるのは女性なのかもしれない。
とはいえ、「男の人でもがんばるからね。実際、今もIターンの男の子が頑張ってくれているし。性別も問いません。」とのこと。
ここで働きたいという人に対して、どんなことを求めますか。
あたるさんが答える。
「笑顔で人と接することができるということかな。裏では排泄とか綺麗ではないこともあって、それは事実だからね。それをわかってもらった上で、笑顔で接することができるか。あとは、イメージできる人だね、いろんなことを。」
「例えば介護してるなかで、その人の娘さんが隣にいると自分のなかでイメージをして、優しいケアができるか。もし自分がこういうことをされたらどう思うだろうか、こんなおむつ交換のしかたは恥ずかしいんじゃないか、こうされたら嬉しいんじゃないかとか。」
なるほど。
利用者の隣で娘のように微笑む文子さんの姿が浮かぶ。
相手の立場にたってイメージをめぐらせるというのは、他の職種でも生活の中でも大切なことのように感じます。離職率が高い福祉の仕事。今の話にもつながると思いますが、どんな方が向いていると言えるでしょうか。
「たとえば嫌なことがあって、次の日楽しく過ごせないでしょう。毎日笑顔では接せられないでしょう。スタッフも人間だから。それが保てないから、離職率が高いんだよね。」
「怒られたりとかすることを間に受けないで、失礼だけど例えば『病気だから』で割り切ることができればいいんだけどね。この方はそういう病気をもっているんだ、と受け入れる。怒られるときもあれば、優しい言葉をかけてくれるときもある。だから、『相手を知る』ということだね。なんで怒られたのかとか、そういう理解ができる人がいいね。」
ここでしかできない事や、それに対する思いをお聞かせください。
「地域と密着してるじゃない?利用者の人もその家族も、昔から自分も知ってるし。それがプレッシャーになることもある。でも、地域とのつながりがしっかりできていくようにしないとね。もし利用者の方に何か事故が起こっても、都会の方ではその家族だけで済むことが多いと思う。でも島では、家族ではない近所の方も気にしてくれる。うまく地域とつきあっていくために、広い目でみていかないとっていうのはある。」
具体的に気を付けていることはありますか?
「報告、連絡、相談じゃない?それが一番大事と思う。どこも一緒だけどね。」
「『ありがとう』っていわれてやりがいを感じるとかあるけどさ、その日に『何もない』ってことが良いね。体調の変化がなくみなさんが無事に過ごせることが良いかな、と思う。」
施設内に掲げられている、多喜人の運営理念。話を伺った後だと、納得です。
甑島という地域で働くということについて。
「私たちはこれが当たり前の生活だからね。確かに不便なこともあるけどさ。」
「熊本での前職は、仕事と家の往復だった。夜遅くまで仕事して、朝早く家を出るっていうその繰り返しが嫌で、むりやり時間をつくって会社にソフトボールチームを作ったりした。仕事以外のことをしたり、子供の頃からしていた剣道のチームに入ったりとか。でも、島では毎日何かあるよね。ソフトボール、剣道、綱引き、地域行事など。仕事以外の時間を自分で作ろうとしなくても、楽しいことがいくつもあって困る。」
それもそれでどうなんだろうね、と笑う。
「Iターン者の中にも、例えばスポーツには苦手だからチームに入ったりとかはしないけど、庭の木を切るとか河川掃除とか得意なことで地域と関わる。地域の行事も強制ではないしね。ただ、特技として『バリバリ何かスポーツやってました』ってのがあればどんどん巻き込まれていくと思うよ。少なくとも自分は、熊本にいたときみたいな、職場と家の往復はないね。その人次第なんだよね。釣りがすきであれば釣り三昧だし、山が好きだったら歩き三昧だし。仕事以外は別にひきこもったっていいわけだしね。」
地域とのかかわりも、島での生活も、自分なりでいい。
やはり長く勤めてほしいと思いますか?
「欲をいえばそうだね。勤務歴は長い人で9年、短い人は2ヶ月で、辞めた理由はそれぞれ。子供の島立ちについていった人もいれば(甑島には高校がないため15歳で島を離れることを島立ちと呼んでいる)、島の生活スタイルが合わなくて、という人もいた。」
「島は何もないところ、人によっては不便だってことを知ってから、まずは一度こっちに来てみてほしいですね。」
本土、特に人口の多い都市部と比べれば、モノもヒトもそう多くはないけれど、楽しみは自分でつくりだすことができる地域なのだと受け入れることが、大切なのかもしれません。
最後に、グループホーム多喜人は一言でいうとどんなところでしょう。
あたるさん「第二の家かな。」
桂さん「安心・安全・安定の生活をしてもらいたい。それができる場所。心の安定、体の安定、それがモットーだね。」
利用者の方を想い、心から向き合う、丁寧な仕事と島の暮らしがしたい。
そんな方をお待ちしています。
兄弟でお仕事、やりづらいことはないですか?
桂さん「仕事中は違う建物にいるから四六時中一緒ってわけじゃないから、特にそんなことはないけど。」
あたるさん「でも綱引とかソフトボールとかも同じチームだから俺たち。あ、結構一緒にいるね。(笑)」
ちなみになんで今日、ユニフォーム着てらっしゃるんですか?
「ソフトボール少年団の監督してるから。このあと練習なの!(笑)」
(2017/02/22 聞き手/和田佳津紗、写真/盛田彩乃、福留明莉)
勤務先 | グループホーム多喜人 |
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募集業種 | 介護職員 |
雇用形態 | パート・アルバイト・正社員 |
給与 | [パート・アルバイト] 時給 750円〜 月給 150,000円〜[正社員] 基本給:130,000円 ※試用期間3ヶ月は120,000円 職務手当:20,000円〜40,000円 |
福利厚生 | [パート・アルバイト・正社員共通] ・交通費規定支給(上限3,000円/月) ・バイク・車通勤OK(社内規定あり) ・昇給あり ・社会保険完備 ・住宅手当全額負担 ・引っ越し費用全額負担[正社員] ・退職金制度あり(勤続3年以上) ・職務手当あり(2万円~3万円) ・賞与あり (前年度実績 年2回または、12万円~17万円) ・定年制あり(一律65歳) ・再雇用あり |
仕事内容 | ・衣食住のサポート ・日常生活の介護 ・レクレーションや趣味活動 など |
勤務地 | グループホーム多喜人(特定非営利活動法人 こしき風林火山) 〒896-1101 鹿児島県薩摩川内市里町里470 |
勤務時間 | [パート・アルバイト] 勤務時間帯 7:00〜16:00 09:00〜18:00 09:00〜22:00 13:00〜22:00 22:00〜翌9:00・1日2h〜、週2日〜3日勤務OK ・午前のみ・午後のみ・フルタイム勤務OK[正社員] 勤務時間帯 7:00〜16:00 09:00〜18:00 09:00〜22:00 (実働8時間、休憩60分)・交代制勤務 ・残業あり(月平均3時間) |
休日・休暇 | [パート・アルバイト] 毎週/シフト制[正社員] 年間休日:105日 |
応募資格 | ・学歴・経験問いません ・介護福祉士免許保持者歓迎 ・ヘルパー2級あれば尚可 ・要普通自動車免許(AT限定可) ・64歳以下(定年年齢を上限) |
募集期間 | 随時 |
採用予定人数 | 1〜5名 |
選考プロセス | お電話か、下記応募ボタンよりご応募ください。
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